空襲下、家族に取り残された老婆が助かったものの、家族と再会する逸話、戦災の後、焼け残った電柱の土中に埋めてある部分を掘り返して燃料にする男の話、箱枕の置いてある桟敷で落語を楽しみ、また映画を見た寄席や映画館が焼失した後の逸話、戦時下の墓地で性交をする男女を目撃した話、などなど、時系列ではなく、さかのぼったり、後の時代に下ったり、前後を関係なく淡々とした筆致で書き進めていく。全体として、あの戦争の時代というのはどういう空気だったのかが伝わってくる。
大上段に振りかぶった書き様ではないだけに、伝わってくるものが大きい。解説で小林信彦が書いているが、巻末の「私の『戦争』年譜」を先に一読した方がわかりやすいかもしれない。
焦点をあてた本です。
著者はアーカイブスの資料や関係者の証言をもとに日米戦争からGHQの日本統治をへて現代までの戦後政治のさまざまな局面を「情報工作」という光をあてて読み解いていく。
そこに現れる発見と真相の数々には読んでいて驚きを隠せない。
戦後の多くの著名政治家がアメリカの情報機関と様々な関係をもっていたことや大事件の裏に見え隠れする情報工作、まさに緊迫の調査報道である。
アメリカが国際政治や外交において「情報」をいかに重視してきたかを見せ付けると共に、対照的に情報後進国でありつづける日本の姿を
はっきりと浮き彫りにしている。
情報戦の勝ち組アメリカ、負け組日本という構図は21世紀に入ってもあまり変わっていないようだ。 裏から見る日米政治史太平洋戦争に於ける日本の敗北の最大の原因は、情報戦において圧倒的に米国に劣っていたことであると多くの歴史文献が明らかにしている。優れた米国の情報戦力によって、日本は戦争に誘い込まれそして敗北したとさえ言う人もいるぐらいだ。情報戦とも諜報戦ともいわれる戦いの力量の差から、日本は戦う前から負けが確定していたと言っても良いだろう。
米国の世界戦略は当時も又現代においてさえも、この圧倒的な情報戦力に基づいている。米国の世界覇権を支えているのは、CIAという単独機関の働きだけではなく、政府機能自身に強く埋め込まれたこの情報に対する鋭い価値観なのだ。
現在共同通信の論説委員長を務める著者は在米記者活動12年に及ぶという。本書は上下二巻に亘り、第二次大戦、現代に至るまでの米国、特にCIAの対日工作を実に丹念に追った労作である。
戦後50年を経て漸く公開された様々な秘密文書などを読みこみ、豊富なインタビューなどの記録から明かされる対日工作の内容は衝撃的である。嫌らしい、あるいは「汚い」ともいえるほどの米国の諜報謀略に憤激を覚えないではないが、その一方で、余りにも情報戦において不甲斐なく、無防備な日本の体制にこそ憤激すべきかなとも思う。
GHQによって行われた、「公職追放」が如何に恣意的な情報戦略の一貫として行われたかの下りは特に興味を引かれる。吉田茂が一旦はリストに載りながら、米国側の事情によって巧妙に追放リストから外される一方では、吉田の政敵でもあった鳩山一郎が何故追放を免れ得なかったのかという秘話などは、日本戦後史の謎解きを読むようだ。
本書には、核持ち込みに関する日米秘密協定、安保、沖縄返還交渉の秘話など衝撃の事実が多く掲載されている。又、現在、活躍中の政治家がCIAの人物ファイルにどのように書かれているかといった点など、著者の資料収集力と分析力には驚嘆させられる。
生きるのが苦しいと思ったことのある人、10代20代の若い人たちにこそ読んで欲しい一作です。 ノンフィクションの仕事戦後シベリアに抑留されたある日本人を中心に、収容所のありさまを、丹念なインタビューによって再構築した力作ノンフィクション。いつ日本に帰れるとも知れぬシベリアの収容所で、飄々と、しかし不屈の精神を持って生きた日本人がいた。
主人公は遺書を残してシベリアで死ぬが、収容所からメモ、手紙などを持ち出すことは許されていない。それでも仲間たちが遺書を彼の遺された家族に届けようようと考え、実行していくシーンには胸を打たれた。
世に知られた人物の知られざる内面を描いた作品もノンフィクションの魅力だが、本書のようにまったくの無名人にスポットを当てることも、ノンフィクションの大きな仕事であろう。
こんな激動の時期(筆者自身が被弾します)でも、彼独特の人間を見る目、人間のdecencyへのrespectにははっとします。オーウェルの著作数あれど、まずはお勧めです。この時代・テーマが好きな方には、ケン・ローチの「大地と自由」もお勧めします。
この本を書き上げるのには、おそらく膨大な資料を参照し、大勢の方にインタビューしたことは想像に難くない。各個人の人格、技量、戦闘記録など、細部に渡って記述されており、読者を唸らせる。また文章も初心者にも読みやすく、読む者に感動を与えるものでした。文才のない私にとっては、真に素晴らしいの一言に尽きます。内容は詳細を極め、伝記の域を超えて戦闘記録資料としても貴重である。武藤少尉はこの六名の中で唯一の妻帯者である。奥様へ宛てた手紙も多数紹介されているが、その優しい心根が伝わり、涙せずにはいられない。