決して、理路整然としているわけではない文章。お世辞にも上品とか名文とはいえない。「何が言いたいの?」と感じてしまう人も決して少なくないだろうし、それは無理もない。
大マスコミではない、いわばアウトローとしての写真家であった著者の無骨だが、リアリティーある文章をぜひ読んでください。いろいろなことを感じるのではないかと思います。
本巻の251ページから第6巻にかけての筆者のラバウルでの様子を描いた個所で、ところどころの印刷が荒くなっています。該当個所は「地獄と天国」という作品のセリフを変えて再利用した個所で、おそらく原稿ではなく印刷物から復刻したことによると思われます。「地獄と天国」は『水木しげる戦記傑作大全 別巻』で読むことができますが、これも雑誌から復刻されているので鮮明ではありません。
第一に、戦術眼で勝敗が決まるということ。敵がどの位置からあらわれるか、どんな機種があらわれるか、どこまで深追いしてよいか、ということを、岩本氏は、おそらく天才と経験で知っていたのである。この本には書いてないが、岩本氏の視力は1・0くらいだったといわれる。しかし、敵機の発見は早かったというのは、読んでいたからなのだ。同様のことは、坂井三郎氏も指摘している。
第二に、集団行動では指揮官の能力で全員の運命がきまること。経験の浅い指揮官に率いられた部隊は全滅に近くやられ、逆にすぐれた戦術眼をもった指揮官が率いると、味方の損害は少なく、戦果が上がる。このあたりは現代の組織にも通じるものがあるだろう。とくに戦争では、人の生死という形で、はっきりそれがあらわれるので、おそろしい。
文体の変化が興味深い。中国戦線では、高度をさげて牧場の牛をおどかしたりして遊んでいたし、珊瑚海海戦でも、張り詰めた中にも武人として充実していたことが伺われる。ガラっとかわるのが、珊瑚海海戦の帰投からである。珊瑚海海戦で、岩本氏は、初めて一作戦で味方が多く失われるのを経験し落胆する。そして内地にもどってミッドウェイの敗戦を知る。そこからは、読んでいても、いらいらしているのがよく伝わってくる。開戦初頭のような充実感は影をひそめ、せまりくる敵にとにもかくにも立ち向かっている、という印象である。要するに、珊瑚海、ミッドウェイあたりを境に、岩本氏の意識から、戦争への勝利、という目標が消えていくのである。ラバウル防空戦も本書のハイライトのひとつだが、それとても、勝利への一歩というつもりで戦っていたのではない。壁がくずれないように支えている、という印象を持つ。仕事をする人間として、こういう状況はつらいものがあっただろう。
特攻についても、短いが印象的な記述がある。特攻が知れ渡ると全軍の士気は目に見えて落ちた、というものである。岩本氏のような歴戦のパイロットになると、精神論はともかく、戦術としての特攻攻撃の無意味さを、当時の前線の状況から、しみじみと悟っていたのであろう。 日本海軍航空隊の至宝撃墜機数202機!伝説のトップエース、日本海軍航空隊の至宝が書き遺した撃墜記録。日本最高の撃墜記録を持つ、岩本徹三 元海軍中尉(34期操練)の豊富な実戦経験、撃墜の真髄を書き記した回想録。本作品は岩本氏が公表するつもりで書かれた回想録であったが、昭和30年に病死されて以来、ご婦人のもとに保管され、日の目を見る事のなかった彼の遺稿である。まさに海軍いや日本の至宝であった岩本氏の遺稿を読まずして、空戦は語れないでしょう。どちらかというと欧米型である一撃離脱戦法を極意とする。巴戦(旋回し合って背後を取りあう戦い)は最終手段とするのが、撃墜王に共通する戦い方といえよう。しかも彼は、操練出身の兵隊あがりにも関わらず、中隊長を務めていたのである。搭乗員が不足していたとはいえ、彼に対する軍のよせる期待の大きさが伺える。まさに特別待遇と言える。また、三号爆弾(空対空爆裂弾)の第一人者である岩本氏の投弾方法なども書かれており、非常に興味深い。彼の文章は自信に満ち溢れ、空戦を極めた男のかもしだす一匹狼的な雰囲気が感じられる。また愛機に描く「桜」の撃墜マーク(大型機は八重桜)に誇りを持っておられたようで、文中にもしばしば登場する。しかも桜が60個以上ついた歴戦の愛機は、内地に送られて国民を鼓舞する為に展示されたのだそうだ。後輩たちも、その無数にある撃墜マークに憧れ、畏怖したであろうことは想像に難くない。敵機も253-102号機には一目置いていたに違いない。常に最前線にあって、終戦まで活躍した数少ない英雄の遺稿を是非読んで欲しい。
共同通信社は、日本中、世界中の報道機関にニュースを配信する会社だ。この会社にある情報は、取材を重ねた事実だ。本書では、その事実が余すことなく登場してくる。日本はこういう社会だったのか。こういう風に動いていたのかと、一抹の悲しさを伴って理解できるようになる。さすが通信社の社会部が執筆した本、非常に分かりやすいし読みやすい。書かれている内容を知らなくても生活できる。しかし、こういう世界もあるのだということを知っていれば、社会を見る目は明らかに変わる。
政治の世界、闇の権力社会も世代交代が進み、本書に登場してくる人物も故人が多い。しかし彼らが亡くなったからといって、その構造が劇的に変わるということはないだろう。日本に息づく闇の社会、その闇に鋭くスポットライトを当てたのが本書だ。
この本は史実に基づいて記述されていることは,このレビューをごらんの皆さんはご存知だと思います.映画化もされていますが,映画ではストーリー性を出すためにいくつかの点が(史実と)変更されている部分も多くなっています.
実際にそのときにソマリアで何が起こったのか,ある程度の軍事・歴史・民族知識は必要になりますが,この本を読めば理解できると思います.
アメリカが何を考え,何を目標にして世界各地に進出しているのか.利権主義だけではなく,「彼らの考える正義」のために動くこともある,という良い例ではないでしょうか.
#他の国から見ればそれは異なった価値観の押し付けになることもありますが…
軍事物、というよりは歴史物、という観点で見ると面白いと思われます.